ストラーデビアンケ感想&パリニース語る

ストラーデビアンケが面白過ぎた。今日早起きして謎のおすすめ記事を書いただけの意義はある面白さだった。あれで誰かが新しくロードレースの門戸をたたいた気はしないが、最早そんなことは問題ではない。紹介するに値するだけの面白いレースだった。興奮が未だ収まらない。

 

やはり、事前に予想したようにセクター8から勝負がかかり、一気に人数が絞られた。いきなりバルベルデやバルデ、イエーツなどが遅れる展開の中で、どんどんとセレクションがかかっていく。ここで残った有力どころには、ファンアールト、アラフィリップ、マチュー、ポガチャル、ベルナル、さらにピドコックといった選手が挙げられる。さらには期待の若手クインシモンズもいる。20秒ほど後方にはフルサンやビルバオのグループが追走を仕掛けていた。

 

精鋭集団がまとまって追走を振り払い、セクター9に入った。ここで最初に遅れたのがディフェンディングチャンピオンのファンアールトで、ファンアールトの後ろでマークしていたピドコックも遅れてしまう。ペースで2人は戻るが、その時点で勝負権がないことは明らかだった。チームメイトを唯一残すピドコックはベルナルのためのアシストを務めた。ここでパンクに見舞われたシモンズはディスクブレーキのせいもあり、後続集団に飲み込まれ、追走を試みるが、結局この集団が追い付くことはなかった。

 

ここまで、シモンズとピドコック以外ビッグネームしか出てきていないが、実際、先頭にはモニュメント覇者のアラフィリップ、ファンアールト、マチュー、さらにツール覇者のベルナルとポガチャルといった超々ビッグネームばかりである。そこにもうひとり驚きの選手がいたのだが、それがクベカアソスのミカエルゴグルである。彼の実績などひとつも知らなかったのだが、この荒れた展開に残っているのだから、相当なものである。

 

この状態でセクター10に到達したメイン集団の口火を切ったのは、マチューファンデルプールであった。登り区間で飛び出すと、反応出来たのは、アラフィリップだけだった。それも一瞬のうちに大きな差を生み出した。結局2人は牽制に入り、ペースでベルナルも合流した。それからはアラフィリップを除く2人でうまく協調が出来、後続のポガチャル、ファンアールトグループとのリードは確固たるものとなっていた。

 

やはり最後の勝負所はシエナ旧市街に至る激坂である。一旦は遅れたツール覇者のベルナルがその登坂力を見せつけるか、アラフィリップがパンチャーの本領を発揮するか、マチューの出力がどれほどすさまじいのか、全てが見どころだった。

 

勝負は一瞬で決まった。マチューがとんでもないスピードでアタックを仕掛けると、どちらも全くついていくことが出来なかった。辛うじて余力を残したアラフィリップが追いすがるが、完全に勝負ありだった。あの一瞬、どれだけのパワーが出ていたのだろうか。下ってのゴールでは、体を揺らしながらのガッツポーズで、余裕すら見せつけた。

 

戦前の、獲得標高が厳しすぎるという不安はなんだったのだろうか。マチューが仕掛けたのは、どちらも登りであった。ポガチャルやベルナルというプロトン屈指の登坂力でも対応することが出来ないアタックは、今後も何度も見ることになるだろう。

 

さらに、アラフィリップに続いて3位入賞したベルナルは、連日のワンデー上位である。怪我からの復帰はどうやら順調らしい。また、インタビューではワンデーにも自信を得たようなことを言っていた。ティレーノやジロでも十分期待できるだろう。

 

また、ベルナルだけでなく、ピドコックもこのメンツに残っていて当然かのような落ち着いた走りを見せていた。最終的に5位でゴールしたことも、期待が持てる。チームとしても、ワンデーレースのこの荒れた展開で、唯一2人を残したのがINEOSになるとは、これまでならば考えることも出来なかったものだ。エースナンバーをつけたことも、いきなり今年ブエルタデビューすることも、最早何ら疑う余地がない。

 

また、このレースはジロの下見の側面もあった。ジロを狙う総合系で今回出場したのは、ベルナルを筆頭に、サイモンイエーツ、バルデ、アルメイダといったところだが、いずれもベルナルから5分以上遅れてのゴールとなった。当日にGCコンテンダーたちが今日ほどの高負荷で厳しいレースをするのかは疑問だが、MTB出身のベルナルに対して、遅れをとる可能性がそれなりにあることをライバルは認識しなくてはならない。

 

さらに、明日からはパリニースが開幕する。こちらは今季初レースのログリッチェとイネオスたちの総合争いが見ものだ。ゲーガンハートにリッチーポート、ローハンデニスと誰がエースをするのかも楽しみである。個人的には、デニスにエースを張ってほしい。さらにはティレーノ、イトゥーリアバスクカントリーとグランツールの趨勢を占うステージレースが立て続けに開催される。CLに向けての練習も佳境に差し掛かる頃だが、こちらも楽しみだ。

Strade Biancheプレビュー

ついに今日ストラーデビアンケが開催される。僕としてはツールの次に好きなレースだ。今回は、ロードレースを全く見たことのない人の入り口としてこのレースを紹介したい。

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このレースは最上位カテゴリに属する格の極めて高いワンデーレースだ。モニュメントという最も歴史あるレース5つの次に位置する、新興ながら大人気のレースだ。最大の特徴はなんと言ってもその名の通り、イタリアトスカーナ地方の白い道、つまりStrade Biancheを駆け抜ける、という点である。

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総距離180キロのレースのおよそ4割が未舗装の砂利道である。さらに、そのほとんどが急こう配で、獲得標高は3000メートル越えと、かなり難易度の高いレースである。まだ少し寂し気なワイン畑の横を駆け抜け、最後はシエナの旧市街にゴールする。

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勝負所は8つ目のセクター、つまり未舗装路だ。ここに届く頃には200人近かった集団も10人ほどの有力選手に絞られているだろう。長く、勾配も厳しいこの区間ではエースによるアタック合戦がかかる。

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ここで抜け出すことが出来ればあとはひたすら全開で踏み続けるだけだ。置いて行かれた小集団は協調して追いかけなくてはならない。もし仮に追い付くことが出来ても、最後の旧市街へとたどり着く激坂で決定的な差が生まれるだろう。最後の下りゴールではスプリントではなく、ガッツポーズを見ることが出来る。

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このレースを国内では主に3つの方法で見ることが出来る。どれも有料サービスだが、是非とも見てほしい。1つがJスポーツのBS放送、これはスカパーに加入することで見ることが出来る。あとの2つがJスポーツオンデマンドとGCN+というストリーミングサービスである。

www.jsports.co.jp

【公式】J SPORTSオンデマンド|いつでもどこでもスポーツを楽しもう。

 

racepass.globalcyclingnetwork.com

 

それぞれ、月額で2980円、1800円(U25で900円)、9.99USD(大体1100円)で加入することが出来る。年額であればいちばん最後のものはもっとお得に契約出来るだけでなく、今月は特に注目のレースが目白押しで、ほぼ毎日なにかしらやっている、特に欧州開幕の本格ステージレースとしてパリニースやティレーノアドリアティコとこの2つは1年を占ううえでも最重要のレースがある。1レースを見るには少し高額と思うかもしれないが、是非試しに見てほしい。ちなみに、どれも当然日本語実況解説がある。GCNは多言語での実況があり、どれも自由に聞けるため、語学の勉強にも役立つかもしれない。

 

では、注目選手を紹介したい。

 

そもそも、このレースは様々な選手にチャンスがある。所謂クラシックスペシャリストだけでなく、その厳しい獲得標高と最後の激坂からクライマーも過去に結果を出している。特に、今年はジロデイタリアというツールとほぼ同格のレースでこれと似たようなコースを走り、それが総合優勝争いにとても重要であるため、ジロ総合を目指すオールラウンダーもかなりの数出場している。今回は今日の優勝を目指せる選手、ジロの前哨戦として大事な選手どちらも紹介する。

 

1.Wout van Aert from Jumbo Visma

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 昨年のチャンピオンである。その前2年もどちらも3位入賞と、このレースとはとても相性がいい。去年最も活躍した選手の一人で、その脚質はファンアールトとしか言いようがないが、シクロクロス、つまり泥道などを走ってタイムを競う種目で世界チャンピオンになっているように、ダートでの抜群のバイクコントロールが魅力である。スプリンターとしても一流ながら、これくらいの獲得標高なら普通にこなしてしまうので、もし最後にもつれるとしてもこの選手が有利だろう。

 

 2.Mathieu van der Poel from Alpecin-Fenix

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 昨年のクラシック、つまりこのような1日で行われるレースを常にファンアールトと盛り上げ続けたそのライバルがマチューである。こちらもシクロクロスで特に現在3年連続世界チャンピオンになっている。バイクコントロールとフィジカルで他を圧倒するこの2人の争いに注目が集まっているが、マチューにはすこし登りが厳しすぎるのではないかという疑問もある。ともに、より平坦でのレースを得意としている。

 

3.Julian Alaphilippe from Deceuninck Quick Step

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 こちらはロードレース専業の選手で、クラシックスペシャリストと呼ばれる部類だろう。19年にチャンピオンになっている。果敢なアタックと、チーム力の高さが魅力で、もし終盤にチームメイトを残していたら最有力の一人となるだろう。チームメイトにはジロ総合を狙うヨアンアルメイダと、15年のチャンピオンになっているスティバールという選手がいるから心強い。

 

4.Tom Pidcock from Ineos Grenadiers

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 こちらもファンアールト、マチューとともに年初のシクロ戦線を賑わせた選手である。なんと今年プロデビューながら、既にシクロ、ロードともに結果を出している。自転車の大体のことで世界チャンピオンになっている超期待の若手英国人であり、このレースでもいきなりエースナンバーをつけて走る。シクロの素地と、U23版ジロ総合覇者の登坂力、さらに先日のクラシックでも3位ゴールをするスプリント能力とレース勘の高さが組み合わされば、優勝してもなんら不思議ではない。

 

5.Egan Bernal from Ineos Grenadiers

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 こちらはそのピドコックのチームメイトのエガンベルナルである。2019年のツール覇者は今年ジロで総合優勝を狙う。その下見としての側面が強いだろうが、過去にもクライマーが上位入賞することは少なくなく、台風の目となるかもしれない。ピドコックとしては頼もしいアシストになるだろう。また、直前に落車をしてしまい、エースを担うことはないと僕が勝手に思っているクヴィアトコウスキーもこのレースに出場する。過去に2回優勝している最強アシストがクラシックでもアシストに専念するならば、こちらもとても興味深い。

 

6.Tim Wellens from Lotto Soudal

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こちらは再びステージ狙いの選手。今年既に2勝しており、集団から抜け出した時の独走力とアタックのキレは候補のなかでもかなり上位だろう。

 

7.Tadej Pogacar from UAE team Emirates

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 20年ツール覇者のポガチャルは、別にジロを目指す訳ではない。しかし、既にLBLやリエージュといったモニュメントで上位に入る走りを見せており、今回も上位に入ってくるかもしれない。昨年のツールでの未舗装路では、アタックを仕掛けようとする瞬間も見ることが出来た。

 

8.Simon Yates from Team BikeExchange

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 多分右がサイモン、左がその双子のアダムである。今年はついに違うチームで走ることになるこの双子だが、サイモンの方は18年にジロで逃した総合優勝を今年も狙うことになっている。ハッキリ言ってクラシックに適性があるとはとても思えないが、これをクリアしないと総合優勝はないため、ぜひとも頑張ってほしい。

 

9.Romain Bardet from Team DSM

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 フランス人期待の星バルデはこれまでフランスチームで毎年ツール総合に挑んできたが、ついに今年ツールに出ずにジロとブエルタを目指すことにした。このレースでも過去に2位に入っており、ジロの注目選手としても、ステージの注目選手としても面白い。

 

今日このレースを見てくれる人がいるのなら是非この9人を覚えていてほしいと思う。レースは21時50分スタートである。最後に、英語実況ながら過去3年分のハイライト動画を置いておく。

 

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このように、晴れても砂ぼこりが、雨ならば泥が選手を襲う訳だが、今日は晴れが予想されている。

INEOS推し選手紹介その3 グランツール覇者編

これまではアシストや期待の若手格を紹介してきたが、今回はこの最強チームでもエースとして君臨する選手たちを紹介する。

 

1.Geraint Thomas

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 2018年にツールを制したのがこのGである。ツール3連覇のエースフルームの不調の裏で着実にタイムを築き続け、ついにエースの座を得たフルームの盟友で、僕がロードレースにドはまりするきっかけとなったその人だ。オールラウンダーの中でも抜きんでたTT能力が特徴で、昨年はパワーメーターを忘れた状態ながらTT世界選で4位となっている。白でフレームの大きいアイウェアが特徴で、どこにいても見つけることが容易であるから、ロードレース観戦初心者でも応援しやすいと思う。

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昨年は不調でツールの選出を外れ、さらにジロでもすぐにリタイアしてしまった。今年はTTの長いツールでエースを務めることになっている。超難関山岳でもスイッチの入ったGの独走力は規格外で、逃げを、追走を、絶望させる圧倒的な走りを期待したい。

 

2.Egan Bernal

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同じく昨年は苦しんだこのベルナルは、19年のツール覇者。18年にフルームとGの間にあったことを再演し、総合ワンツーを成し遂げた。左右の足の長さの違いからくる背中の痛みに悩まされて単独エースで挑んだツールをリタイアすることとなったが、リハビリは順調のようだ。既に今年はモンヴァントゥでチームメイトのイヴァンソーサとワンツーフィニッシュ、総合でも3位を獲得、クラシックでも集団スプリントを制するなど、元気な姿を見せてくれている。今年は思い出の地でもあるイタリアでマリアローザを目指すようで、その試走としてストラデビアンケにもエースとして臨む。最近はログラがクラシック戦線でも活躍しているし、ベルナルも負けていられない。

 

3.Richard Carapaz

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19年にモビスターでジロを制したカラパスは昨年からINEOSの一員である。昨年はジロで自身のタイトルを守る予定だったが、Gとフルームがツールメンバーから外れ、急遽ツールに出ることとなった。調整が遅れ、横風分断にパンクで巻き込まれるなど不運もあり当初のサブエースとしての役目は果たせなかったが、ベルナルリタイア後は果敢な逃げを続け、一時期は水玉ジャージを着ることも成功した。また、クヴィアトコウスキーと共に感動的なステージ優勝を達成し、ただでは転ばないところを示した。

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 これまで見てきた中でいちばん美しいゴールシーンだった。その後はブエルタで単独エースとしてログリッチェと一騎打ちに挑み、総合2位となった。今年ツールを目指す彼は現在標高5000メートル越えのところで高地トレーニングをしており、どこを目指しているんだ、という気がしないでもないが、トーマスとの共闘がとても楽しみである。

 

4.Tao Geoghegan Hart

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読み方はいつまでも理解できないと思う。昨年のジロ覇者であるこの英国人は、これまで次代の英国人エースとして期待されながら中々チャンスをモノに出来なかったが、ついにジロでそれを達成した。今年はGとカラパスを支えるサブエースとしてツールを目指すことになっている。昨年の混乱の中の優勝に疑問符を投げかける人たちを見返すいい機会だろう。自信を得てからのゲーガンハートはこれまでとは見違える走りをしているように僕も感じるし、ともすれば一昨年のベルナルのようなことが起こってもおかしくはない。

INEOS推し選手紹介その2

前回の記事は朝5時に書き始め、収拾がつかなくなってしまったため、中途半端なところで終わってしまった。しかし、INEOSファンの僕としてはまだ紹介したりない選手がやまほどいるので、それを今回は紹介したい。

 

1.Dylan van Baarle

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殺し屋のような冷徹な顔のもと、淡々とチームのために仕事をする職人。クラシックではクヴィアトコウスキーと共にエースとして振る舞うこともあるが、本領発揮をするのはアシストとしてこそだと思っている。元々平坦系の選手ながら近年は山岳でも中盤まで仕事をする実力を見せるINEOS好みの選手である。上の写真はエースフルームが離脱して自由を得るや否やステージ優勝を果たした瞬間のもの。最近はチームでクラシック班が着々と強化されており、体格をより山岳アシスト向きにしていくのも面白いのではないだろうか。今年のツールに出場するのはすこし難しいかもしれないが、是非頑張ってほしい一人だ。

 

2.Jhonatan Narvaez

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 INEOSにも一定数いる、結局この若手誰なんだよ枠だった。去年までは。カラパスのトレーニング相手だというこの選手もクライマーなのは間違いないのだろうが、レース数も、リザルトもほとんどなく、脚質がわからなかった。最初の大きなリザルトは、コッパバルタリでのステージ1勝含む総合優勝だろう。激坂スプリントで2位、スプリントで、1位、3位と立て続けに上位入賞をし優勝した彼はパンチャー、スプリンター系なのか?しかし出身地からしてクライマーなのでは?と思っていた。その直後に出場したジロではトーマス離脱後に逃げからステージ優勝をし、独走力が十分高いことも示した。

 

今シーズンはもっと大きなことを成し遂げるかもしれない。最初に見せたのは20%前後の激坂フィニッシュのスプリントでの3位入賞。トーマス、ゲーガンハートというグランツール覇者2人のアシストを受けて発射されたのが彼なのだから、チームからの期待、信頼も厚いのだろう。さらにはオープニングウィークエンドでマチューのアタックに一人だけついていき、前にいる逃げ集団とのタイム差3分を2人で詰め寄った。さらに80キロに渡ってローテーションを回し、最後まで逃げ切りを目指した。最後には集団に吸収されてしまったが、ナルバエスが逃げたお陰でローテーションに加わらずに済んだピドコックがスプリントで3位となり、表彰台に乗ることを助けた。

 

激坂や石畳に強い、スプリント力と独走力のあるクライマーというような選手なのだと思う。アラフィリップのような脚質だろうか。今年はINEOSがクラシックにもかなり注力しているし、ビッグタイトルをとってもおかしくないと思っている。

 

3.Richie Porte

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初代フルームの右腕である。今年から古巣のINEOSに帰ってアシストとしての役目をはたしてくれるだろう。フルームの右腕としてツールの優勝メンバーになること3回。その後はエースとして走ることを求め移籍し、昨年ついにツールで総合表彰台に上がることが出来た。それまでも1週間程度のステージレースではダウンアンダーやパリニースなど、圧倒的な実力を示していながら不運に見舞われていたが、ついに風向きが変わったようだ。今年は心機一転、最強のアシストとして最後までトーマスをサポートするだろう。

 

そんなリッチーの最大の特徴は誰もを引きちぎるダンシングだ。これでダウンアンダーの名物峠、ウィランガヒルを驚異の6連覇している。今年もオーストラリアナショナルチームとして参戦し、チームメイトのルークプラップを従えながら王者の凱旋を果たした。 

 

 個人的には仕事を終えた後、フルームの横で走ってるシーンを見ることが出来たら嬉しい。そんなシーンフルームには要らないのだけど。

 

4.Carlos Rodriguez

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こちらも誰なんだよ枠だった一人である。大学在学中ながらU23カテゴリをすっ飛ばして獲得したのだから超期待の若手であることは間違いなかったが、TTが強いこと以外わからなかった。ジュニア時代に2年連続で国内TTチャンピオンとなっている。

 

僕がこの選手を覚えるきっかけは、というかロードレースファンがこの選手を認識したきっかけは、今年のツールドラプロヴァンスのモンヴァントゥステージでの圧倒的な牽引だと思う。ダンバーが逃げを全員捕まえると同時に仕事を終えると、ロドリゲスに牽引役をスイッチし、残り4.8キロ程度まで約3キロに渡って集団を引っ張り続けた。大きかった集団を15人ほどにまで小さくしたその牽引で、ルツェンコやバルギル、ヘイグといった一流のクライマーたちすらついていくことが出来なくなっていた。その後はベルナルとソーサという2人のエースが見事なコンビネーションを発揮し、しっかりとワンツーフィニッシュ、そのまま総合優勝を果たした。

 

クラシックのアタック合戦でもベルナルやダンバーと共にマークを続け、先頭で自身がアタックする場面も見られた。今後はアシストとして経験を積みつつ、グランツールのエース候補として育てていくのだろう。

 

5.Ehtan Hayter

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 対するこちらは期待の若手の中でも実績十分すぎる選手である。このチームの王道であるトラック出身で、トラックでは既に大成功を収めている。若手登竜門のラブニールやベイビージロのスプリントステージで勝利を量産した。それだけでなく、TTの強さも折り紙付きで、登りを含む10キロのTTでガンナから21秒遅れの3位に入賞している。これは総合逆転を狙って本気だったクヴィアトコウスキーよりも早いタイムである。

 

オープニングウィークエンドではヘイタ―での必勝態勢を構築していながら落車に巻き込まれ、そのスプリントを拝むことは出来なかったが、既にプロでも1勝しており、将来が楽しみである。イケメンやし。登りや長距離の牽引もある程度こなせるこの英国人はスプリンターに冷たいこのチームでもしっかりと居場所を見つけるだろう。ジロやブエルタでINEOSがスプリントステージを制する日もそう遠くないのではないか。

 

6.Tom Pidcock

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 こちらも同じく超期待の新人でヘイタ―の旧友だが、こちらの実績はさらに格が2つも3つも違う。自転車の名を冠するスポーツでチャンピオンになっていないものを探す方が難しいような、自転車の天才である。軽く実績をあげると、ジュニアのTT世界チャンピオン、ベイビージロやパリルーベ総合優勝、シクロU23世界チャンピオンのみならずプロでもマチューを打ち負かしている。さらにはマウンテンバイクやEバイクでもチャンピオンになっている。

 

マジの規格外である。ガンナのTT能力も、エヴェネプールの快進撃もバケモンじみたものを感じるが、彼の可能性にも同様のものを感じる。既にプロのレベルには慣れ、自信を得ることが出来たとの発言があり、クールネブリュッセルクールネでは表彰台に乗っている。シクロの経験から未舗装路や石畳の適性は抜群であり、既にストラデビアンケではベルナルと共にエースとして走る予定である。

 

さらに、ベルナル、トーマス、カラパス、ゲーガンハートといったグランツール覇者がどのグランツールでエースを務めるのかの発表と同時にピドコックのブエルタ参戦が発表された。つまり、既にグランツール覇者待遇である。ワウトやマチューがロードレースを席巻しているように、この男がいきなりロードレース界を驚愕させるかもしれない。

 

ちなみに、グランツールエースとしての将来を期待されている選手がスプリントで前世界チャンピオンのピーダスンやテュルギスに次ぐ3位になったことに関しては最早何の驚きもなかった。ブリティッシュチームでU23を転戦していた時にヘイタ―とのワンツーを量産していたから当然だ。ブエルタのような仕組みであれば、4賞ジャージを独占することもおかしくないのではないだろうか。

 

ヘイタ―とピドコックは互いの信頼感も厚く、このコンビネーションを見るのが楽しみである。ナルバエス、ガンナとともにクヴィアトの次を担うクラシック戦線のエースとなるだろう。これまでワンデーレースをあまり見ないのは牽制などが起こりすぎてしまうからだったが、彼らのアグレッシブな姿勢は、とてもレースを面白くしてくれる。今年はロードレースの楽しみがいっぱい増えそうである。

 

INEOS注目選手紹介

これを書こうとすると、無限に話が出てくるし、注目に値しないような選手が所属出来るチームではなく、本当にキリがないから、少し避けていた。今回は注目というより、僕が大好きな選手をピックアップして紹介したい。

 

1.Michal Kwiatkowski

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難読選手第一位。僕はミハウクヴィアトコウスキーと表記することが多いが、ミヒャウとか、ミカウとか、クフィアトとか、コフスキーとか、表記ブレにはことかかない。

この選手の最大の魅力は、真の意味でのオールラウンダーである、という点だ。世界チャンピオンになったこともあり、クラシック系でのエースはもちろん、1週間程度のステージレースでは総合エースもこなす。タイムトライアル、登坂力、スプリント力、どれをとっても超一流で、自身がエースになれないグランツールでは一転して最強のアシストとなる。自転車選手としてだけでなく、メカニックとしての知識も豊富でエースのメカトラにも迅速に対応することが出来る。その豊富な経験からチームの精神的支柱となるだけでなく、プロトンでも最大級のリスペクトを受ける選手である。

 

昨年はエースベルナルのリタイアに伴ってグランツールで初の自由を得ることが出来、カラパスと共に感動的なツールでのステージ優勝を果たした。 

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2.Richard Carapaz

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そのステージ優勝を共に分かち合ったのが昨年モビスターから加入してきたカラパスである。2019年のジロ覇者は、イネオス初年度もその強さが偶然ではないことを示した。ツールではトーマスの代理として急遽呼ばれ序盤にタイムを失ってしまったが、エースとして挑んだブエルタでは総合2位と大健闘した。クレバーながら情熱的な走りをする選手である。

 

3.Andrey Amador

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そのカラパスの右腕として同じくモビスターから移籍したアマドールは、屈指の山岳アシストである。昨年はアシストが全体的に低調な中で、カストロビエホとアマドールだけが頼りだった。しかも、山岳だけでなく平坦の横風分断やスプリントステージでのエスコートも積極的に行う万能型である。いつ見ても仕事をしている選手である。

 

4.Jonathan Castroviejo

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こちらも通年で安定した仕事っぷりを見せるアシストである。スペイン国内タイムトライアル選手権で過去5回優勝している平坦の牽引能力だけでなく、最近は山岳でも最後まで残る場面が増えている。2019年のツールではクヴィアトコウスキーとプールスという二大山岳アシストが不調だったなかで、この選手の存在はとても大事だった。山岳で仕事を終えてもテンポを刻み、気付いたら戻ってまた仕事をしているなんてこともある。

 

5.Rohan Dennis

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18,19年と2年連続でタイムトライアルの世界チャンピオンに輝いているのがローハンデニスだ。メンヘラっぽさがあり、親近感が湧くが、ただの平坦アシストではない。元々グランツールの総合エースとして期待されていたほどの爆発的な登坂力を有し、去年はゲーガンハートの総合優勝のためになくてはならない活躍を見せた。Jumbo-Vismaのセップクスを昨年の最強山岳アシストにあげる人が多いと思うが、僕はローハンデニスを推したい。総合表彰台争いをしていた全員を蹴散らす牽引を最後までして見せたのはこの選手だけである。しかも、それを3日で2回やってのけた。1度でも欠けたらゲーガンハートの総合優勝はなかったかもしれない。それだけ強力なアシストである。いずれ自身がエースとしてグランツールを走ることがあるかもしれない。

 

デニスが常々掲げてきたグランツール優勝チームの一員となるという目標を昨年思わぬ形で達成して、それをとても笑顔で語っていたのが特に印象に残っている。失踪することもある選手だが、是非エースとして走るのも見たい。ダウンアンダーでリッチーとチーム内争いしても面白いのではないかな。

 

6.Filippo Ganna

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そしてこちらが2020年のタイムトライアル世界チャンピオンのガンナである。タイムトライアルでは現状全く無敵で、誰も手が付けられない状態である。既に8連勝しており、タイムトライアルのあるレースにとりあえず出場させておけば勝利は間違いないという具合で、ガンナの出場レース選考が少し雑になっていないか?とも感じる。しかし、TTだけでなく既に逃げから圧倒的な独走力でジロなどロードでも勝っており、カンチェのようなクラシック、特に北のクラシックでのエースとしての期待が高まる。また、ジロでは初日がTTなため、アルカンシェルからマリアローザへの衣替えも楽しみだ。

 

 

INEOSとは

これまで、さも当然のようにINEOSという名前を出していたが、それについて深く言及していなかった。僕が最も応援しているチームであるのは伝わっていただろうが、何故応援し始めたのかや、その沿革に至るまで、色々と語りたい。

 

現在はINEOS Grenadiersという名称で活動しているイギリス籍のチームだが、元々はイギリス人でツールドフランスを制覇しようという国家的事業の一環として2010年に起こったチームだった。当時の名をチームSkyというそのチームは、徹底した合理主義と豊かな資本を武器に、当初は5年内にという目標だったにも関わらず、2012年にはもう達成してしまった。その成功は、マージナルゲインというキーワードでよく語られる。つまり、1%の改善を積み重ねていけば、それは大きな成功にいつかつながるというものである。

 

この哲学がチームの根底にある。これまであまり踏み込まれていなかった領域にも積極的に科学を持ち込み、新興チームながらすぐに王者のチームとして君臨するようになった。元々、プロロードレースに自分で黒字を出す能力はない。公道でレースをし、チケットや放映権料がチームに入ってこないからだ。チームは広告塔としての価値を高めるしかなく、トップチームであっても資本力に乏しいところが多かった。その中でイギリス人の絶対的エースとして才覚を表したクリスフルームのもとに、当代最強のエースたちを揃えてアシストに据え、フルームによる必勝態勢を築いた。それだけの資本力がこのチームにはあった。

 

フルーム得意のTTで稼いだリードを山岳ではその最強アシスト軍団が最後まで守り抜く。黒の軍団と恐れられたスカイトレインはそのあまりの最強ぶりに、他チームのエースの戦意を折るほどだった。フルームは結局2012年から2014年を除いて17年まで、3連覇を含む4回ツールを制覇している。

 

まさに最強の軍団だった。しかも、グランツール、特にツールドフランスでの総合優勝にだけ注力し、スプリントやクラシックにはあまり目もくれない姿勢やツールでのディフェンシブすぎる走りは、ロードレースをつまらなくしているという批判も付きまとっていた。その批判はフルームのドーピング疑惑とともに大きくなっていく。しかしその批判を完全に吹き飛ばす強さを披露したのが、2018年のジロ・デ・イタリアだ。

 

初日の落車などで優勝最右翼のフルームは序盤からタイムを失い続け、一方でライバルチームのイギリス人サイモンイエーツは圧倒的な登坂力を見せ、2週目を終える頃には既にステージ3勝をあげ、苦手と思われたタイムトライアルにあってもTT世界チャンプにして前年覇者のドゥムランからあまりタイムを失わなかった。ドゥムランの登坂力を考えるとサイモンの優勝はほぼ決まったか、といった論調の裏で3分以上遅れるフルームは最早終わった存在と位置付けられていた。

 

しかし、フルームと当時のチームSkyはすべてをひっくり返した。それが伝説の19ステージだ。詳しくは他を当たってほしいが、ディフェンシブなチームが一転攻勢に出て、そして誰も予想だにしなかったフルームによる80キロの一人逃げ、その果てには3分半を逆転しての人生初のマリアローザが待っていた。これによって総合優勝を決定付けたフルームは翌日の最終決戦でドゥムランを再び下し、グランツール3連覇、生涯グランツール制覇を達成した。

 

このチームには、いくらかの批判と、それを弾き飛ばす圧倒的な実力が備わっている。さらに、ロードレースの奥深さを僕に教え、導いたチームでもある。それがグランツール4連覇、五勝クラブ入りを目指す同年のツールドフランス、僕が初めてロードレースを観戦したレースである。

 

ジロを誰にもできない方法で優勝したツール3連覇中のチャンピオンを差し置いて、他に優勝候補など存在しなかった。しかし、その予想に反して序盤のフルームはあまり調子が上がらない。なんてことのない場所でも落車してしまう。そんなエースの不調の裏でタイムを着実に積み上げたのがチームメイトで一応サブエース格のゲラントトーマスである。最初の本格山岳決戦でステージ優勝とマイヨジョーヌを手にすると、翌日もその圧倒的な登坂力でもってステージ優勝を飾った。

 

トーマスがマイヨジョーヌを着ること自体は過去にもあって、その際はチーム内でキレイにリレーし、そのままフルームが総合優勝していた。しかし、このころから真のエースはどちらなのか、という話題が取りざたされるようになる。実際、ミスを重ねるフルームに対し、すべてに落ち着いて対処するトーマスは、日に日にタイムを伸ばしていっていた。どちらも古くからのチームメイトで、お互いのリスペクトを以てチームが総合優勝することが大事だと答えていたが、ついにフルームがエースの座をトーマスに渡す瞬間がやってくる。ピレネーで限界を迎えたフルームはトーマスにそのことを伝える。その後はとても簡単である。フルームはこれまで受けた献身的なアシストの恩返しをするだけである。

 

実際にライバルたちのアタックにことごとく対処して見せた。そしてトーマスもそれに応える働きで直近のライバル2人からしっかりとタイム差を広げた。そこにはベルナルという恐るべき新人が存在したことも忘れてはならない。2人のエースを抱えるベルナルはまずは2人のための仕事をし、さらにフルームが千切れた後もトーマスのペーシングを行った。エース同士のアタックがかかって遅れをとっても、それでもフルームのもとで三度仕事をし、これは最終的にフルームの総合3位を守ることになる。

 

このようにクイーンステージを完璧なチーム力で乗り越えたトーマスに与えられるのは、パリでのマイヨジョーヌ、つまり総合優勝の栄光である。しかも、それを祝う表彰台には盟友フルームがいる。これまでフルームのために八面六臂の働きをしてきたトーマスが、チームのためにエースとして働き、フルームはそれを全力でアシストする。ロードレースの自由度の高さを教えてくれたのがこのレースだった。そして、それが僕がロードレース沼にハマったきっかけである。

 

その翌年にもドラマは待っていた。フルームが前哨戦のドーフィネの試走で大腿骨骨折などの大怪我を負い、ツールの出場はおろか、選手生命すら見通せないような状況となってしまった。トーマスは当然エースとして走るが、そのサブエースとして大抜擢を受けたのがエガンベルナルである。そしてまたドラマがやってくる。

 

序盤にマイヨジョーヌを獲得したフランスの英雄アラフィリップ。いずれ山岳でタイムを失うのは時間の問題とおもわれていた。そうでなくとも本格山岳に挑む前のタイムトライアルでトーマスがマイヨジョーヌを奪うと多くが考えた。しかしその予想を裏切るマイヨジョーヌマジックが起こった。アラフィリップはトーマスに勝つどころか、ステージ優勝までしてしまったのである。フランス人として35年ぶりの総合優勝が見えて湧き立つフランスで、ブリティッシュチームにかかる重圧は相当なものだっただろう。そそんな中、翌日のトゥールマレーでトーマスはアラフィリップに遅れを取ってしまった。興奮冷めやらぬフランスの中で、ついにマイヨブランに袖を通したベルナルは着々と順位をあげていた。

 

18ステージのダウンヒルでベルナルとトーマスの順位が入れ替わったが、それまで一貫してトーマスがエースであった。それが変わったのは悲願達成まであと2日となる19ステージである。大会最高地点を目指しての登坂で、ベルナルは強烈なアタックを繰り出す。トーマスに先行すること1分、その後方ではアラフィリップが無残にも遅れていった。その後のダウンヒルで土砂崩れがあり山頂でのタイムがそのままステージの結果となり、マイヨジョーヌはアラフィリップの手から零れ落ちてしまった。そしてこの年もまたあのドラマを見たことになる。トーマスとフルームがそうしたように、翌日のトーマスはベルナルのアシストを明言。20ステージでもライバルを寄せ付けない走りを見せた2人は、そのまま総合優勝と2位を実質的に手にした。

 

19ステージの結末に納得のいかないアラフィリップだったが、このステージを前にベルナルと握手をし、健闘を誓い、称え合った。この日も遅れてしまったアラフィリップは最終的に総合表彰台すら失ってしまうのだが、そこにはスポーツの気高さが顕著に表れている。そして総合敢闘賞という形でアラフィリップはパリシャンゼリゼで表彰台に上がり、世界中から最大の賛辞を受けた。

 

ロードレースにはただ数字を競うだけでない美しさがある。それは各地の景観もだが、それだけにとどまるものではない。ドラマがあるし、気位がある。それを僕が知ることが出来たのは、このチームが強かったからこそである。だから僕はこのチームが大好きだ。

 

そして、今年のINEOSについても語りたい。今年はついにフルームと袂を分かつ年となってしまった。元来圧倒的エースとしての立場を求めるフルームにとって、トーマスだけでなく、ベルナルやカラパスといったグランツール覇者が続々登場することはあまりうれしいことではなく、また、怪我からの復帰の道すがら、このチームではチャンスを得ることすら難しいから、いつかはそうなるさだめだったのかもしれない。しかし、今年からはチームのレジェンドを欠いて、新しいチームとして動いていかなくてはならない。

 

このチームの根底にはブリティッシュファーストというものが存在する。近年は南米出身の総合系がエースを務めることが多かった。しかし、再び原点に戻ろうとする意図が今年は明確に感じられる。自転車後進国だったイギリスのスーパースターフルームに導かれた新世代が続々とこのブリティッシュチームで活躍している。その一人がゲーガンハートだ。

 

トーマス単独エースで臨んだ昨年のジロでいきなり落車リタイアとなった後を継いだ急造エースのロンドン人ゲーガンハートはこれまでエース候補と期待されていながら中々結果を出せずにいた。しかし昨年はステージ優勝で自信を得ると勢いそのままに逆転総合優勝を果たしてしまった。

 

ゲーガンハートのチャンスが限られていた理由はこの2年の加入選手たちにある。去年加入の若手スプリンターイーサンヘイタ―は既に昨年プロ初勝利をあげている。スプリントだけでなくTTも得意とし、クラシック班のエースだけでなくグランツールでのスプリンター圏平坦アシストを担える逸材である。多少の山なら登れることも当然見逃せない。

 

さらに、既に次代のイギリスエースとしてツールでマイヨブランを獲得したこともあるアダムイエーツが加入した。今年既にポガチャルとの大熱戦を繰り広げ、惜しくも総合優勝とはいかなかったが総合2位とエース、チームともにグランツールで十分戦っていけることを示した。既にブエルタでのエースが内定している。

 

これだけではない。なんといっても最大の注目はトムピドコックである。小さな巨人は英国きっての至宝で、自転車のかかわるありとあらゆる分野でチャンピオンとなっているほどの逸材である。U23やジュニアカテゴリの実績を数えだしたらキリがないが、特筆すべきは既にシクロにおいてマチューやファンアールトに肉薄する走りを見せていることだ。不運があったとはいえ、マチューに土をつけた数少ない人類である。

 

ベイビージロの山岳ステージを立て続けに優勝し、TTを最速で駆け抜け、悪路では最高のバイクコントロールを見せ、さらにはスプリントでヘイタ―とワンツーフィニッシュするほどの実力を持つこの若者の未来は全く想像がつかない。4賞ジャージ独占を夢見るのも、やり過ぎではないだろう。

 

最強を標榜するこの軍団は、次の時代に移った。フルームの時代から、トーマス、ベルナルというチャンピオンを輩出した過渡期を経て、フルームがイギリスに蒔いた種を立派に咲かせる時だ。特に英国人の未来に目を向けて応援していきたいと思っている。また、フルームのリハビリはまだまだ長いものになるのだろうが、ぜひともこの最強軍団と真正面から打ち合うほどの復活を見せてほしい。リッチーだって最後に表彰台に乗って見せたのだから。

ジロの話をしてないのに気付いた

気付いてしまった。僕はこのブログでジロやブエルタについて語っていない。これほどロードレースが大好きで、それについて語るのも特別に好きなのに。だから今回はジロの話をする。カラパスの大健闘についても今度する。

 

ジロはイネオスにとって、ツールの汚名を返上し、最強チームとして君臨し続ける絶好の機会だった。一年を通して煮え湯を飲まされてきたJumboはジロに十分なメンバーを連れてこれていない。ツール覇者をエースに、平坦から山岳まで万全の体制で臨むこのジロはまさに、必勝だと思われていた。

 

実際、タイムトライアルが3ステージもあり、そこでトーマスに対してアドバンテージを稼ぐことが出来る総合系はジロにはいなかった。初日のTTでイエーツからいきなり26秒を稼ぎ出したのだから、彼らは山岳で勝負するしかない訳だが、他チームの攻撃からエースを守り抜くことにおいて、イネオストレインの右に出るものはいない。そして、それを証明すべき最初の山岳決戦、エトナ山フィニッシュにおいて、山頂を拝む前にイネオスは絶望を味わうことになった。ニュートラルゾーンでトーマスが落車してしまった。骨盤を骨折した彼に集団ゴールするだけの余力はなく、その場でサブエースを拝命したゲーガンハート以外がトーマスのそばで介抱してもずるずるとタイム差が広がっていく。最後には10分以上遅れてしまった。

 

結局翌ステージでトーマスは戦線から離脱することになった。イネオスはツールでの屈辱を再び味わうこととなってしまった。あの時はクヴィアトとカラパスの感動的なステージ優勝でなんとか見せ場を作ったが、この最強を標榜する軍団が、一年で1つのグランツールすら勝てないというのは許されない。しかし、総合優勝を狙うだけの戦力はおらず、その望みをカラパスに託してステージ優勝を狙うこととなった。

 

その狙いはすぐに結実した。それがガンナによる逃げ切り勝利で、それはチームの雰囲気を一気に明るくした。そして、ガンナの将来に無限の可能性を抱かせるものでもあった。その後も立て続けに選手たちを逃げに乗せる。他チームならもっと自由に走れる選手たちが、遂に得たグランツールでの自由をみすみす逃す訳がない。プッチョ、カストロビエホ、ベンスイフトと2位や3位フィニッシュでイネオスのチャレンジが終わらないことを印象付け、さらにはカラパスの同胞ナルバエスがまたステージ優勝を得て、3勝を積み上げた。その先にガンナやデニスによって残る2つのTTを取ることは明らかで、5勝を持ち帰るのなら、イネオスファンとしても大成功だと思っていた。2014年のように、不運が積み重なればこのような年もあり、コロナ禍でそうなることを責めることは誰にもできない。

 

しかし、それだけで満足しないのがイネオスだった。初日からセーブして走り順位を落としていたゲーガンハートがエースを拝命し、着実に順位をあげていた。そして、エースとしての自覚に目覚める瞬間がやってくる。英国チームの次世代エースとして期待され、前年のブエルタでは完全な自由が与えられていながら全く噛み合わず、その中でベルナルやカラパスといった南米の総合系が台頭、さらにピドコックという英国の至宝のチーム加入が決まるなど、エースとして名乗りをあげる最後のチャンスになるかもしれなかった。それを見事に射止め最初のワールドツアーでのステージ勝利をあげたのがピアンカヴァッロの登りフィニッシュだった。サンウェブがトレインを組みアルメイダを千切り、ケルデルマンでの必勝態勢を築いた。そこに唯一ついていけたのがゲーガンハートで、最後は得意のスプリントでジェイヒンドレーとケルデルマンをかわしての勝利だった。他の総合系が脱落したことやボーナスタイム、前日のTTでの成功もあり、一気に総合表彰台が見えてくる勝利だった。

 

でも、やはり、見えてくるのは表彰台でしかなかった。マリアローザは依然として程遠く、それこそフルームがやって見せたような、奇跡的な走りが必要だった。フルームに出来ても、ゲーガンハートにその実力があるとはだれも考えていなかったが、ゲーガンハートにはエースとしての自信が芽生え、チームもそれに信頼を寄せたのだろう。

 

残る山岳決戦は2つ。そこでサンウェブとドゥクーニンクの3人を引きずり落とす戦いが始まった。それは極めて計算されつくされたものだった。まずはステルヴィオだ。あの時のようにプッチョの高速牽引で集団のアシストを減らすと、そこからはローハンデニスの出番である。ステルヴィオをたった一人で引き倒してしまい、それによってアルメイダだけでなくケルデルマンすら遅れさせた。総合上位にケルデルマンとヒンドレーの2人を残すサンウェブは数の有利を活かしゲーガンハートの前に出ようとしない。最終山岳のスプリントでゲーガンハートがヒンドレーに敗れはしたものの、途中のボーナスタイムをゲーガンハートとデニスが先着しそこで2秒もアドバンテージを得るなどし、ついに総合リーダーまで15秒に位置するまでになった。

 

最終総合決戦の20ステージはまさにフルームの伝説を再演するにはもってこいのフィネストレステージであり、ここでもまたローハンデニスの支配的な強さが披露されることになる。ここではベンスイフトやガンナまでもが序盤から高速牽引を見せた。これにはアルメイダだけでなくフルサンやニバリといった本格派クライマーまでついていけず、それはマリアローザのケルデルマンも同じであった。ふたたび最強のアシストであることを示したデニスが最終局面までゲーガンハートとヒンドレーのそばに残り、ヒンドレーのアタックのほぼすべてに対応してみせた。最後にはゲーガンハートがマッチスプリントを制し、史上初の同タイムで最終日を迎えることになる。

 

 この戦いで、1秒でも前にいた方が総合優勝者となる。彼がゴールして、3分が経ったとき、ヒンドレーはまだゴールラインに達していなかった。それはすなわち、ゲーガンハートの総合優勝を意味する。イネオスにとってもフルーム以来2度目の快挙である。もちろん、ガンナのステージ優勝を脅かす選手はいなかった。こうして、イネオスは〆てステージ7勝と総合優勝にヤングライダージャージ、チーム総合とこれ以上ない結果でレースを終えた。これはこのチーム始まって以来最も成功したグランツールである。

 

単独エースが早々に離脱してしまい暗雲立ち込めるなか、自分たちの力を信じ、ステージ勝利を量産、そしてそこで得た自信を糧に総合優勝。漫画そのもののような展開で幕を閉じた。こうしたドラマはロードレースだからこそ起こるのだと思う。誰もが展開次第でエースになれる。そういう自由度と作戦の高度さがロードレースにはある。だからこそトーマスはフルームのもとでツールチャンピオンとなったし、ベルナルもそうであった。そして、今回はゲーガンハートがチャンピオンとなった。勝利の経験がこうしてリレーして次世代を形作る。そのチームの礎を築いたフルームは今や挑戦者だ。昨日のTTでは本気ではなかったのだろうが、グライペルと同タイムというのはいくらなんでも寂しい。

 

今年、ゲーガンハートは晴れてツールデビューを果たす。しかもあのイネオスでエース待遇で、だ。対するフルームはイネオスを飛び出して最強グランツールチームたちに挑むことになる。頼むからさっさとグランツールやってくれ。楽しみすぎる。